大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和30年(う)2784号 判決

原判決が小田正の検察官に対する第一、二回供述調書を本件断罪の資に供していることは洵に所論のとおりである所論旨は該調書は証拠能力がないと主張する。然し記録によると小田正は原審において本件につき証言を拒絶しているから該調書は刑訴法第三二一条第一項第二号前段の書面に該当すること勿論にして所論の如く該調書が証拠能力をもつためにいわゆる信用性の情況的保証の存在を必要とするものではない。次に論旨は前記調書の任意性を争うけれども該調書を仔細に検討するときは所論の如くむじゆんに満ちてもおらず検察官より無理に供述させられた形跡など少しも認められず同人が全く任意に為した供述を録取したものであることが十分窺える。記録によると所論の如く小田正が昭和三〇年二月二七日公職選挙法違反被疑事件により逮捕され同年三月二日勾留状の執行をうけ期間延長により同月二一日まで勾留されていたこと検察官木村博典が書面により同月五日被疑者と弁護人及び弁護人となろうとする者との接見等に関しその日時及び時間を同月五日より同月九日までを除く毎日午前八時より午後五時までと指定し次いで検察官田中誠一が書面により同月一五日前同様の日時及時間を同月一〇日より同月一七日までの八日間を除く毎日午前八時より午後五時までと指定(一〇日より一四日までを除外期間に包含させた部分の違法無効たるは勿論であるが之がため指定そのものの無効をきたすものではない)したこと及裁判官による接見禁止決定がなされたことを首肯できるが叙上の諸点からただちに前記検察官のなした指定が所論の如く刑訴法第三九条第三項による指定権を濫用したものとは到底認められない。而して前記指定が小田正の検察官に対する供述の任意性に影響を及ぼした形跡は記録上少しも認められない。小田正と弁護人との接見が事実上全然禁止された旨の所論事実は之を首肯すべき証拠がない。却つて記録によると中川弁護士は三月九日及同月一八日の二回に亘り弁護打合せのため小田正と面接していることが認められる。小田正が神経痛等のため多少身体に不調をきたしていたこと及び拘禁による精神的打撃をうけていたことは記録上窺えるがその程度は同人の検察官に対する供述に影響を及ぼす程のものでなかつたことも記録上十分窺える。又小田正の検察官に対する第一、二回供述調書の信憑性に疑念を抱く事情も記録上発見できない。してみると該調書は証拠能力あるは勿論信憑性あるものと云うべきを以つて原判決が之を本件断罪の資に供したのは洵に相当であり原判決に所論の如き違法は存しない。

その(二)について、

記録によると被告人が本件のため昭和三〇年三月九日附の勾留状により同月一〇日久留米拘置支所に収容され期間延長により同月二八日まで勾留されたこと同月九日裁判官による接見等の禁止決定がなされたこと及び同月一一日検察官高木重幸が書面により被疑者との接見等に関しその日時及び時間を同月一七日午前九時より午前一二時までの三時間と指定したことは洵に所論のとおりであるがその指定は所論の如く現に弁護人たるものとの接見等に関するものでなく弁護人となろうとする者との接見等に関するものであること記録上明白である。叙上の諸点からただちに所論の如く被告人の検察官に対する供述調書が任意性を欠くとは到底認められない。被告人の検察官に対する供述の任意性の有無は前記諸事情と関係なくその供述した当時の情況に照らして判断すべきものなる所前記供述調書を検討するとその形式、内容からして被告人の供述が直接その取調に当つた検察官の不当な影響の下になされたことを疑わしめるに足る形跡は少しも認められないから原判決が被告人の検察官に対する供述調書を証拠に採つたことは少しも違法でない。

その(三)について、

高木検察官のした刑訴法第三九条第三項の処分により被疑者と弁護人となろうとするものとの接見が制限されることは勿論であるが前記(二)について説明したとおりであるから該処分が所論の如く同法条憲法第三四条第三七条に違反し被疑者井田十郎と弁護人及び弁護人となろうとする者の接見を事実上全面的に禁止する結果をきたし被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであるとなすの失当たるは多言を要しない所である。記録上本件捜査が弁護権の不当制限の下に行われた形跡は認められないばかりでなくたとえ所論の如く捜査段階において弁護権不当制限の違法があつたとしてもそれは公訴提起の効力とは別個の問題であつてために本件公訴提起の手続が無効となるものではない。記録を調査するも本件公訴提起の手続がその規定に反してなされた点は認められない。それ故原判決が本件公訴を棄却しなかつたのは固より当然にして原判決に所論の違法は存しない。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 中村荘十郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!